― 知っておきたいマダニ感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」 ―
🩺 はじめに:それは、あなたの身近でも起こりうることです
2025年、三重県でSFTS(重症熱性血小板減少症候群)に感染した猫の治療にあたっていた獣医師が、感染により命を落とすという痛ましい出来事がありました。
これは決して「遠い地域の話」ではありません。
感染した動物の体液を介して、人が命の危険にさらされる——。
そんな現実が、今まさに私たちの身近で起きているのです。
SFTSは、ペットとその家族のどちらにも関係する重大な感染症です。
ここからは、飼い主の皆さまに知っていただきたいSFTSの基本と、今すぐできる予防策についてお話しします。
🦠 SFTSとは?
― ウイルスが引き起こす命に関わる感染症 ―
SFTSは「重症熱性血小板減少症候群」と呼ばれるウイルス感染症で、主にマダニが媒介します。
SFTSの特徴は以下の3つです。
- 感染源:ウイルスを持つマダニの吸血で感染。
- 感染経路:マダニの咬傷だけでなく、感染した動物の血液・唾液・排泄物などへの接触でも感染の可能性があります。
- 危険性:現時点で人に対するワクチンや特効薬はなく、致死率は最大で約30%にも達します。
このウイルスは、人間だけでなく犬・猫にも感染します。
🐈 猫は特に注意!
― ペットにも命に関わる感染症 ―
SFTSは、犬や猫に感染すると重症化する危険性があります。
特に猫は非常に重症化しやすく、数日のうちに命を落とすケースもあります。
| 動物種 | 主な症状 | 致死率の目安 |
|---|---|---|
| 猫 | 高熱、食欲低下、黄疸、嘔吐など | 約60%(非常に高い) |
| 犬 | 発熱、食欲不振、嘔吐・下痢(無症状もあり) | 約40%以上 |
そして恐ろしいのは、感染したペットから飼い主へウイルスがうつる可能性があるということです。
愛するペットを介して家族全員が危険にさらされる——。
SFTSはまさに「人と動物、両方に関わる感染症」なのです。
👩⚕️ 飼い主にも感染リスクがあります
日常のふれあいの中にも感染のリスクがあります。
- 元気のないペットの口の中をのぞく
- 嘔吐物や血液を素手で拭き取る
- 感染した動物に咬まれる、引っかかれる
これらはどれも自然な行為ですが、SFTSでは感染の原因となる場合があります。
猫の看病中に感染した飼い主の事例も報告されており、「うちの子は大丈夫」と油断できません。
🌏 「室内飼いだから安心」は通用しない!
マダニは小さく、飼い主の服や靴に付着して室内に持ち込まれることがあります。
完全室内飼いでも、リスクはゼロではありません。
さらに、SFTSの発生地域は拡大しています。
以前は西日本が中心でしたが、現在は関東・東北でも感染報告があり、2025年には東京都内で犬の感染例が確認されました。
つまり、全国どこに住んでいても油断できない状況です。
🛡 飼い主ができる3つの予防策
― 「知って・守って・続ける」 ―
【1】マダニ予防薬は春から秋を中心に!
マダニは春~秋に活発になります。
この時期にしっかり予防することが基本です。
ただし、暖かい冬や屋外活動が多い場合は、余裕があれば冬も予防を継続しましょう。
動物病院で処方されるマダニ予防薬(スポットタイプ・チュアブルタイプなど)は効果が確実です。
(市販薬・個人輸入薬は推奨できない)
季節に関係なく、生活環境に合わせた予防スケジュールを立てましょう。
【2】猫は完全室内飼いを徹底!
草むらや公園など、屋外にはマダニが潜んでいます。
猫の場合、外に出さないことが最善の予防策です。
窓辺の日光浴など、ストレスを減らす工夫で「安全」と「快適」を両立させましょう。
【3】散歩後のチェックを習慣に!
犬の散歩後は、必ず体をチェックしてください。
耳の後ろ・目のまわり・わきの下・内もも・指の間などは特に注意。
マダニを見つけても、無理に取らず動物病院へ。
引き抜くと皮膚に口が残り、感染を広げることがあります。
🚨 もしも感染が疑われたら
ペットの体調が急変したときは、次の点に注意してください。
🐾 ペットが体調不良を示したら
- 素手で触れず、使い捨て手袋・マスクを使用してください。
- よだれ・血液・排泄物にはウイルスが含まれる可能性があります。
- 必ず事前に動物病院へ電話連絡を!
⚠️ 当院では個人防護具(PPE)が完全ではないため、感染が強く疑われる場合には安全確保の観点から受け入れが難しいことがあります。
その際は、感染症対応が整った他の診療施設をご案内させていただきます。
これは、飼い主様・他の患者様・院内スタッフ全員の命を守るための措置です。
👨👩⚕️ 飼い主様に症状が出た場合
- 発熱・下痢・倦怠感などが出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- その際は「飼っているペットがSFTSに感染した可能性がある」と伝えてください。
早期対応が、命を守る最大の鍵です。
🌿 正しい知識が、あなたとペットを守ります
SFTSは恐ろしい病気ですが、正しい予防を行えばリスクは大きく下げられます。
特に大切なのはこの2つ。
- マダニ予防薬を春から秋に確実に使用し、余裕があれば冬も継続する
- 猫を外に出さない
これだけでも、感染リスクを大幅に減らせます。
🐇 最後に:知ることが、最大の防御です
私たち獣医師が願うのは、予防できる病気で悲しむご家族を一人でも減らすことです。
SFTSは「知ること」「防ぐこと」で命を守ることができます。
不安なことがあれば、どんな小さなことでもすいれん動物病院にご相談ください。
地域の皆さまとペットの健康を守るため、私たちは常に最前線でサポートいたします。
今日が、あなたと大切な家族の命を守る第一歩になりますように。
すいれん動物病院
院長 新田 健
コメント